うまみ調味料「味の素」の成分「グルタミン酸ナトリウム」は安全?

食のコラム
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「”味の素“の主成分である”グルタミン酸ナトリウム“は危険だから、味の素は使わない方がいい!!」

という様な声を聞く一方、

「”味の素”の安全性は科学的に証明されているから料理に使っても全然問題ない!!」

という反対意見もよく聞きます。

安全か安全ではないかと聞かれると99.9%は安全だが、100%安全ではないと曖昧な答えになってしまいます。そもそも普段食べている大体の食品は、絶対安全とは言えないですよね。どんな食品でも食べ過ぎれば毒になりますし、一部の人にのみアレルギー反応を引き起こす食べ物もあります。

“味の素”は必ずしも安全ではないから絶対使わないというも一つの選択肢。また、”味の素”は便利だから使いすぎないように適度な量を使うというのも一つの選択肢。”味の素”を使う使わないをどうこういうつもりはないですが、味の素とは何なのかもう少し詳しく知っていたら、味の素の見方もまた変わってくるのではないでしょうか。

この記事では、味の素とは何なのか、どうやって作ってるのか、うまみとは何なのか、などについて見ていきます。

 

目次

味の素はどうして料理をおいしくするのか?

味の素は会社名でもあり、味の素株式会社の主力商品であり、日本人なら誰でも一度は聞いた事があると思います。日本だけでなく、味の素は海外でも大きな利益を出していて、味の素は日本が誇る一大ブランドの一つではないでしょうか。最近はアジパンダなるキャラクターが味の素の宣伝をしていますね。彼は味の素のグローバルアンバサダーに就任してるらしいですよ。
それでは、味の素はどうして料理をおいしくする事が出来るのでしょうか。それは味の素が「うまみ」成分を含んでいるからです。このうまみとは何なのかもう少し具体的に見ていきます。

味の素の成分

味の素の公式ホームページで表示している成分は以下のようになります。

  • グルタミン酸ナトリウム 97.5 %
  • イノシン酸ナトリウム 1.25 %
  • グアニル酸ナトリウム 1.25 %

味の素は三種類の成分が含まれているのですが、これらは全てうまみ成分です。97.5%と大部分を占めるグルタミン酸ナトリウムはアミノ酸一種であるグルタミン酸とナトリウムイオンが結合した物質です。このグルタミン酸ナトリウムがよく「人体に害を及ぼすデータがある。」と言われ問題になっている物質です。(そのデータを否定するデータもよくある。)

そして、他の2つの成分が何故入っているかというと、グルタミン酸ナトリウムのうまみの効果をより高めるために入っています(相乗効果)。グルタミン酸ナトリウムを単体で摂取した場合に比べて、少量のイノシン酸ナトリウムはグアニル酸ナトリウムを同時に摂取した場合の方がうま味を数十倍強く感じると言われています。

それぞれのうま味物質の原料となる物質の構造式が下の図のようになります。これらの物質がナトリウムイオンと結合する事で我々はうま味として感じる事が出来るようになります。図に示すようなグルタミン酸の状態の結晶を舐めたら酸っぱくまずい味がするらしいです。しかし、グルタミン酸ナトリウムになる事で、うま味として感じる事が出来るようになるというのは不思議ですね。

人の味覚では5種類の味を感じている

味の素の成分はうま味物質ですが、うま味物質とはまず何なのでしょうか。”うま味”と書いてあるからには”美味い”とは想像できると思うのですが、なぜ”うま味”は”美味い”のでしょうか。それを知るためにはまず、うま味を含む人が感じる事の出来る味覚5種について見てみます。

うま味インフォメーションセンター

人が感じる事の出来る味は5種(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)あると言われていて、それぞれの味覚は各々に特徴的な物質を受容することが出来ます。それらの物質を受容する事が出来るという事は、我々人はそれらの物質を受容するように進化してきたという事であり、体にとって必要な物質であったり避けるべき物質であるという事を意味します。

甘味 エネルギー
酸味 水素イオン 腐敗の指標
塩味 ナトリウムイオン ミネラル
苦味 アルカロイド 忌避すべき物質
うま味 アミノ酸、核酸 体の構成成分

それぞれの味覚で受容できる物質が何を意味するのでしょうか。まずは、甘味や塩味について見てみます。甘味は砂糖やグルコースなどの体のエネルギーになる物質です。また、塩味は体の機能維持に必要なミネラルのことです。これらの物質は体の正常な活動のために必須のものであるので、美味しいと感じるように体が進化してきました。

一方、酸味苦味は避けるべき味として認識するように人の舌は進化してきました。酸味は食品が微生物により分解されて生じる酸から由来する物質であり、食品が微生物によって腐敗している事を示す指標になります。そして、多くの苦味は生物が作る毒物のように人体に悪影響を与える物質から由来する物質です。しかし、人は好奇心旺盛な生き物で、避けるべき物質も好んで食べるようになってしまいました。酢の物やコーヒーは子供の頃は嫌いでも、年を経ると好きになる人も多いのではないでしょうか。これは後天的味覚といいます。本来酸味や苦味は忌避すべき物質なのですが、何度も食べ危険でないと認識することで食べられるようになり、その独特な味に惹かれるようになるのです。

酸味についてもう少し書きます。食品の微生物による分解が悪い方に進むと腐敗と言われ、いい方に進むと発酵と言われます。例えば、酢はアルコール発酵と酢酸発酵によって作られ、ヨーグルトは乳酸発酵によって作られます。人間にとって好ましい方向に反応が進んだ場合でも、酸は発生するので、酸味があるからと言って必ずしも忌避するべき物質であるわけではないです。どの酸を忌避してどの酸は食べていいのかは、人の食事の経験から分かるようになります。

そして、うま味は甘みや塩味と同様に体にとって必要な物質の指標となります。グルタミン酸はアミノ酸の一種であり、アミノ酸は体の構成成分であったり、酵素などの体の機能を維持するために必要な物質です。イノシン酸やグアニル酸は核酸の一種です。核酸はDNAを構成したり、ATPなどのエネルギー物質となったりします。

うま味は体に必要な成分のシグナルです。うま味を積極的にとるように我々は進化してきました。それを考えれば純粋なうま味成分である味の素は成分だけを見たら危険という事は考えにくいのではないでしょうか。

うま味を感じることが出来るとは?

うま味物質であるグルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸は身体に必要な物質であるので、体にどんどん取り入れたいと思うでしょう。そのため、うま味物質を摂取すると体が喜ぶ反応を示すのです。私たちの体にはうま味を欲しているので、うま味に対するセンサーを持っています。それが味覚であり、うま味の受容体です。私たちの舌の上には上記に示した5種類の味覚に対する味を受容する細胞を持っています。その細胞が呈味物質を感知すると、その信号を脳へ送り、複数の信号を統合する事で食品の味を感じる事が出来ます。

従来はうま味受容体の存在は認められておらず、味は甘味・酸味・塩味・苦味の4種類からなるものと考えられていました。しかし、日本人が主体となった複数の研究の結果、それらの4味とは独立してうま味に対する味覚も存在する、つまり、うま味受容体が存在するという事が分かってきました。海外ではこのうま味の存在がなかなか受け入れられず、うま味は味の一種ではなく風味増強剤と認識されていました。

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、和食は世界に認知されつつあります。そして、和食で大きな役割を果たすうま味という味覚も認められつつあります。日本食は濃厚な味付けを控え、素材の味を楽しむことが出来るように調理されています。そのため、素材の持つうま味を味わう事が出来ます。世界に日本食が広まるにつれ、うま味という第5の味覚も徐々に受け入れられつつあるのです。

味の素はどうやって作っているのか?

味の素の主成分であるグルタミン酸ナトリウムを最初に見つけたのは日本人です。1909年、当時の東京帝国大学の池田菊苗は昆布を水に溶かし、そこからうま味物質であるグルタミン酸ナトリウムを抽出することに成功しました。その後、児玉新太郎や国中明らによってイノシン酸ナトリウムがうま味成分である事が分かり、また、国仲明と中島宣郎らによってグアニン酸ナトリウムもうま味成分である事が突き止められました。

池田菊苗によって発見されたグルタミン酸ナトリウムはすぐに工業的に生産されるようになりました。その生産方法は小麦や大豆などの植物タンパク質を分解してアミノ酸であるグルタミン酸を抽出してきてナトリウムとの塩を作る、というものでした。この方法は化学薬品を使いうま味物質を生産するため、消費者へのイメージが良くないです。そこで、1955年にグルタミン酸を高生産する微生物であるコリネ菌が見つかって以来、発酵生産方が採用されてきました。

味の素株式会社は”味の素”を化学調味料と言われる事をひどく嫌っていて、”うまみ調味料”という言葉を定着させようと努めているように感じます。成分は同じでも化学調味料と言われる場合とうまみ調味料と言われる場合では印象が大きく変わりますよね。

日本うま味調味料協会

味の素の97.5%を占めるグルタミン酸ナトリウムの製造方法は上の図のようになります。原料としてサトウキビや尿素、アンモニアなどを用います。それらの原料を餌としてコリネ菌を培養します。コリネ菌が培地中に生産したグルタミン酸を回収し、それをナトリウムイオンと結合させ、グルタミン酸ナトリウムの結晶を得る事が出来ます。

グルタミン酸ナトリウムの生産方法は多くの本やホームページで紹介されているのですが、イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウムの生産方法はあまり紹介されていないように感じます。味の素のホームページからもこれらの核酸系うま味物質がどのように生産されているか詳しく分からなかったのですが、一般的に核酸系うま味物質を生産する方法はいくつかあります。

  1. 核酸の一種であるRNAを化学的に分解する方法(化学合成法)
  2. 核酸系うま味物質の原料であるグアノシンやイノシンを微生物に生産させ、そこから化学的にうま味物質を生産する方法(発酵法+化学合成法)
  3. 核酸系うま味物質の原料であるグアノシンやイノシンを微生物に生産させ、そこに酵素を用いてうま味物質を生産する方法(発酵法+酵素法)

現在、酵素法はあまり使われていないという話を聞いた事があるので、1または2の方法だと化学合成法が使われていることになります。どの方法が使われているか定かではなく、化学合成法が必ずしも危険というわけではないのですが、“味の素”は発酵法を使っているから安全という単純な理論は成り立たないのではないでしょうか。イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムは味の素全体んの1.25%ずつと少量ですが、これらの生産方法についても企業にもう少し細かく説明してもらいたいですね。

 

うま味を摂取する事で健康に近づける?

グルタミン酸ナトリウムは健康に害を及ぼすと一時期は言われていましたが、最近ではグルタミン酸ナトリウムによる健康への悪影響は否定されていてむしろ、より影響を与えるという論文が多く出ています。

それでは、グルタミン酸ナトリウムはどのようにして健康向上につながるのでしょうか。

中華料理症候群とグルタミン酸ナトリウムの関係とは?

味の素を食事に取り入れることを恐れている人は、グルタミン酸ナトリウムによる中華料理症候群を根拠にあげる人が多いです。中華料理症候群とは次の様なものです。

中華料理店症候群とは、グルタミン酸ナトリウムの多量摂取による一過性の神経興奮性作用のことで、旨み調味料を大量に使った中華料理の食後の頭痛、顔面紅潮、発汗、顔面や唇の圧迫感などの症状です。
引用 : 病院検索HOSPITA

1987年、味の素が入った料理を食べたところ上の様な症状を示す、と言う論文が発表され味の素の安全性に疑問が持たれました。しかし、後の研究でそれは誤りであるという事が分かりました。大量のグルタミン酸ナトリウムを摂取した場合は健康への影響が出る可能性があるが、普段の食事で摂取する程度なら何の影響も出ないのです。

また、グルタミン酸ナトリウムは日本の安全試験に合格しているのみならず、WHOや米国のFDAからも安全と認められています。

うま味物質を摂取するメリットとは

近年、うま味は世界的に認められてきて、うま味に関する論文が数多く書かれています。うま味物質による健康への効果にはどのようなものがあるのでしょうか。

  • うま味による減塩効果

食塩の過剰摂取による高血圧は多くの人の悩みの種です。日本人は特に食塩の摂取量が多いのです。漬物やみそ汁の食塩を考えれば納得いくのではないでしょうか。食塩の量が少なすぎると食事に物足りなさを感じますが、うま味を加える事で食塩の量を減らしても美味しさを損なわない、という実験結果が出ています。

  • うま味による唾液分泌の促進

お年寄りが食事に楽しみを見いだせない、ご飯を食べない理由として食事を美味しく感じられないからという理由があります。年をとり唾液が出にくくなると、食品の味を感じにくくなります。食べ物を咀嚼し、唾液に溶解させることで、舌の味受容体が味を受容する事が出来るようになるからです。ここで、ドライマウスの症状がある患者にうま味物質が豊富な昆布の抽出液を与えると唾液の分泌が盛んになるという実験が行われました。

  • うま味により食事の摂取量を減らせる

2018年の Savory foods may promote healthy eating through effects on the brain という論文でうま味によってダイエット効果がある可能性が示されました。この論文では、食べすぎてしまう人を対象に食事の前にグルタミン酸ナトリウムが入ったスープを飲んだところ、食欲と食事の摂取量の低下を起こすことが分かりました。この傾向は肥満の傾向がある女性に特にみられるそうです。うま味は優秀な栄養素なので、少量を摂取する事で脳が栄養分は足りていると判断し、食事の摂取量を減らすことに役立つのではないかと思います。

 

まとめ

いかがだったでしょうか。味の素の主成分であるグルタミン酸ナトリウムの安全性については賛否両論ありますが、近年は安全性を証明する論文が多くあります。しかし、一部の人にとっては少量のグルタミン酸ナトリウムも健康に悪影響を与える可能性はあります。

味の素は非常に便利な商品であり、普段の食事に色が加わります。味の素の科学について理解したうえで適切な使い方をすれば、普段の食事がより一層楽しくなると思います。

参考資料

  1. 味の素公式ホームページ
  2. うま味インフォメーションセンター
  3. 日本うま味調味料協会
  4. G A Settipane. Jan-Feb 1987;8(1):39-46. The restaurant syndromes
  5. A. N. Williams K. M. Woessner. 07 April 2009. Monosodium glutamate ‘allergy’: menace or myth?
  6. 化学調味料が「体に悪い」は間違い! 医師が指摘する“添加物リスク”の受け止め方
  7. International Glutamate Information Service

 

コメント

  1. […] うま味についてはうまみ調味料「味の素」の成分「グルタミン酸ナトリウム」は安全?でも詳しく解説しています。 […]

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