「牛肉を大量に購入したがすぐに使いきれず色が悪くなったが食べれるか分からない…」
そんな経験はないでしょうか。
色の悪い牛肉を食べるのは食中毒の原因になるのでおすすめをしませんが、私はふと「なぜ牛肉の色はこんなにも変化するのか…」と悪くなった牛肉に申し訳なさを感じつつ考えるのです…
この記事では、牛肉の色の科学について説明していきます。悪くなった牛肉だけでなく、加熱した牛肉や加工した肉の色の変化についても書いていきます。
目次
牛肉の色の科学
牛肉の色の科学について解説するためにまずは、牛肉のタンパク質について説明します。肉の主な構成成分は水分・脂質・タンパク質の三つです。この中で、牛肉の色を呈する物質がタンパク質の一種のミオグロビンという物質です。
まずは、肉のタンパク質とミオグロビンについて見ていきます。
牛肉に含まれるタンパク質
牛肉に含まれるタンパク質は3つに大別されます。
- 筋漿タンパク質
- 筋原線維タンパク質
- 肉基質タンパク質
ヘモグロビンやコラーゲンなどの単語は聞いた事があるのではないでしょうか。筋原線維タンパク質のミオシンとアクチン、肉基質タンパク質のコラーゲンに注目した低温調理した肉はなぜ柔らかい?大事なことは時間と温度だった…という記事も書いているのですが、今回は筋漿タンパク質のミオグロビンに注目して記事を書いています。
ミオグロビンは図のようなタンパク質で、緑の枠で囲われたヘムという物質を持っています。ヘムの中心には鉄原子が入り込んでいて、鉄が酸素によって酸化されることで色が変化します。
また、水色の枠で囲われた酸素、一酸化炭素はヘムの鉄原子に結合する物質です。このヘムに結合する物質が、酸素になったり他の物質になったりする事でもミオグロビンの色は変わります。
ここからは余談ですが、ミオグロビンと同じような構造体が4つ集まってできたものがヘモグロビンです。ヘモグロビンは血液中に存在し、ミオグロビンは筋肉中に存在します。肺でヘモグロビンは酸素を受け取り筋肉まで運んだら、筋肉でヘモグロビンからミオグロビンに酸素が渡されることで、筋肉中にスムーズに酸素がいきわたるようになります。
ヘモグロビンもミオグロビンもどちらも鉄を含むタンパク質なので、貧血で血液が足りずフラフラするというときはヘモグロビンの補充のために鉄分の摂取が推奨されるのです。
ミオグロビン量による肉の色の変化
齋藤忠夫、根岸晴夫、八田一夫、産業利用学、文栄堂出版(2011)
牛肉中のタンパク質の中でもミオグロビンが肉の色の決定に重要なのですが、それはミオグロビンの中に含まれるヘムが赤系の色を呈する色素だからです。
ここで、ヘモグロビンもヘムを持っているから色に関わるのか…と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。ヘモグロビンは生きている動物の赤色には関わるのですが、屠殺後は血抜きをするので、ヘモグロビンはほとんど残らないです。
そのため、食用の状態の肉の色はミオグロビン量によって決まります。赤系の色を呈するミオグロビン量が多いほど、肉の色調が濃くなります。
馬は高速で走るのに多くの酸素を必要とするため、鯨は長時間潜水するのに多くの酸素を蓄える必要があるため、ミオグロビン量が濃い赤色を呈するのです。
牛は鶏や豚に比べミオグロビン量が多いのはなぜかよく分からないですが、恐らく牛の方が体が大きいためそれを支え動かす骨格筋が発達し、必要な酸素量が増加するからだと思います。誰か詳しい人がいたら教えてください…
いづれにせよ、牛肉はミオグロビンが多く含まれているため、赤色を呈するのですが、そのミオグロビンに含まれるヘムの状態が変化することで色が変化するというのが次からのお話…
牛肉の処理による色の変化の違い
時間が経つと牛肉の色が悪くなるのは酸化が原因
ミオグロビンは屠殺後すぐの新鮮な状態では暗赤色をしています。しかし、空気に触れる事でヘムに酸素が結合し鮮やかな赤色(鮮紅色)を呈すようになります。肉屋に行くと、塊の肉を切った直後は暗赤色ですが、時間が経つと徐々に鮮やかな赤色に変化する事が分かります。この酸素化による色の変化は鮮やかな美しい赤色になる事からブルーミングと言われます。
ヘモグロビンの色もミオグロビンと同じように変化します。出血した時の血液は静脈血、つまり酸素と結合していないヘモグロビンを含むので暗赤色です。一方、動脈血、つまり酸素と結合しているヘモグロビンを含む血液は鮮紅色です。もし動脈から出血すると血圧により血が噴き出るので普通は動脈血を見ることはないのですが…
話を戻します。酸素と結合したミオグロビンがさらに長時間、空気中に放置されると次はヘムに含まれる鉄が酸化される事で色が暗褐色に変化します。この色の変化は時間がかかるので、長時間放置されている事の指標になります。
肉がさらに放置されると、緑色を呈すようになります。ここまで色が変化すると完全に腐っている証拠ですので、もし少し前に買った肉が緑色であったら迷わず捨てましょう。
次に、加熱による色の変化を見てみます。加熱による色の変化は時間経過による変化と少し異なります。時間経過による変化は酸素化や酸化によるものでしたが、加熱による変化はタンパク質の変性によって生じます。暗褐色のメトミオグロビンが加熱により形を変える(変性)ことでメトミオクロモーゲンという物質に変化し灰褐色を呈するようになります。
ちなみに、鮮紅色のオキシミオグロビンも加熱するとすぐに酸化されメトミオグロビンに変化した後、メトミオクロモーゲンに変性し色が変わります。
色の悪くなった牛肉はいつまで食べれる?
時間経過について肉の色が変わる事が分かったと思いますが、肉の鮮度を見分けるためにはどう活用したらいいでしょうか。
まず、スーパーで牛肉を買うときは新鮮な肉の指標である鮮紅色を探しましょう。切断後の肉をすぐに買うという機会はそうそうないと思うので、スーパーで並んでいる肉はカットから数十分経過してブルーミングが起きていると思われます。家に帰って料理をしようと肉を持ち上げると、暗赤色の部分が見つかるかもしれませんが、それは牛肉が酸素に触れていなかったため酸素化していないからです。表面が鮮紅色で内側が暗赤色、というのは問題ないです。
しかし、表面が暗褐色に変わっている肉は鮮度が落ちている証拠ですので、できるだけ鮮やかな赤色をした肉を買うとよいです。暗褐色の肉は鮮度が落ちているが食べれないほどではないのですが、購入したら早めに料理することをお勧めします。
牛肉を購入後、家で数日経ってから使おうという場合、もし、肉が緑色をしていたら気を付けてください。緑色は完全に腐敗しているので、すぐに捨てるべきです。
牛肉が腐っているかまだ食べられるかは色でも判断できますが、臭いや触感などの他の点からも判断できるので、総合的に判断しましょう。
- 触ると糸を引く
- ねばねばした触感
- 酸っぱいにおいがする
- アンモニア臭がする
- 緑色を呈する
これらの状態は腐りかけか完全に腐っているので、絶対に食べないようにしましょう。
- 微生物による腐敗
- 酸素による酸化
肉が悪くなる主な原因はこの二つです。
腐敗を防止するためには、微生物が活動しにくい低温にするか、殺菌処理するかです。つまり、肉を冷蔵庫や冷凍庫で保存するか、加熱調理してすぐに冷まし冷蔵庫や冷凍庫で保存するかです。
酸化を防止するには、真空パックなどで酸素に触れさせないようにします。
いずれにせよ、腐った肉は”本能的にやばい”と感じる何かしらのオーラが出ているのでやばいと感じたら無理に食べるのはやめときましょう。
焼肉に行ったら少し生でも食べてしまえ…と調子に乗ってしまうことありませんか?私がそうなのですが、今まで大きな食中毒にあたったことはないです。肉について調べているとO-157による集団食中毒やサルモネラ菌による食中毒の話も目にします。食中毒になるとかなりつらいらしいですね…肉の焼き足りないと食中毒になる可能性は十分あると考えて、慎ましく焼肉をしようと思います(-_-メ)
加工肉の色の科学
ハムはピンク色をしていて時間が経っても色が変わらないですよね…つまり、空気中の酸素による酸化が起きないのですが、それはなぜでしょうか。
ハムやソーセージなどの加工食品を作る時は、加熱前の食肉に食塩や発色剤(亜硝酸塩、硝酸塩)などを加えて一定時間漬け込む「塩漬」という操作を行います。亜硝酸塩や硝酸塩から一酸化窒素(NO)が生じます。そして、ヘムの酸素が結合するべき部分に一酸化窒素が結合する事で、酸素が結合できなくなり、酸素による色の変化が起きなくなります。酸素の代わりに一酸化窒素が結合する事でヘムは桃赤色を呈すようになり、それがあのハムのピンク色になるのです。
一度塩漬をすると加熱しても肉の色が変わらず桃赤色を呈します。
一酸化窒素(NO)は発がん性を有する可能性が指摘されており、食肉加工食品を敬遠する人もいます。しかし、加工食品の通常の摂取量では人体に影響を与えるほどの量を摂取する事はないので危険性は極めて低いと言われています。
一酸化炭素(CO)も一酸化窒素(NO)と同じような働きをします。昔は一酸化炭素でマグロの見栄えをよくする処理をしていました。その結果、一週間放置してもきれいな赤色を維持でき腐敗の程度が分からないという問題がありました。そこで、1994年の「食品衛生法」によって一酸化炭素処理は禁止されました。
まとめ
牛肉の色の変化を知るにはミオグロビンについて知る必要があります。ミオグロビンはもちろん私たちの体の中にも存在します。ヘモグロビンはミオグロビンと同じような働きと色の変化をするので、ヘモグロビンとの関係でミオグロビンについて知ると理解が早くなると思います。
ミオグロビンが空気に触れ酸素化、酸化することで牛肉の色が変化していきます。
牛肉が食べれるが食べれないかを判断するには色も大事ですが、臭いや触感などから総合的に判断して悪くなっているかを見極めましょう。
参考文献
齋藤忠夫、根岸晴夫、八田一夫、産業利用学、文栄堂出版(2011)
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