花酵母を使った日本酒はどんな味がする?花の香りがするの?

食のコラム
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花酵母という言葉を聞いた事があるでしょうか。🌸🌸🌸

普通の日本酒は蔵に住み着いている酵母や、日本醸造協会が配布する酵母を使って日本酒を仕込むのですが、近年、花から単離した酵母を使った日本酒というのが注目されています。

花酵母を使った日本酒はいったいどんな味がするのでしょうか?
普通の日本酒とは違う味がするのでしょうか?

 

花酵母を使った日本酒とは?

 

最近は若者の日本酒消費量が増え、日本酒文化も多様化しつつあります。古代米を使った日本酒、純米酒なのに色がついた日本酒、ロックで飲むための日本酒などなど。そして、花から単離してきた酵母を使用した日本酒もあるのです。

通称、花酵母と言われる酵母を使って醸した日本酒とはどんな日本酒なのでしょうか。

花酵母を使った日本酒は花の味がする?

初めて、花酵母を使った日本酒を飲む人はまず、日本酒に花の香りがついていたり、花の味がすることを期待すると思います。

しかし、花から単離した酵母を使ったいるからといって花の香りがするわけでもないですし、花の味がするわけでもないのです。花の香り成分の構成物質を酵母は作っているかもしれませんが、花の香りは花自身が作っているので、花から単離した酵母を使ってもその花の味や香りを作り出すことは出来ません。それでも、通常の酵母に比べ、花という、より野生的な環境で育った酵母は普通の日本酒酵母にはない力強い味や香りを作りだす酵母もいるのが特徴的です。

日本酒造りに酵母は何故必要なのか?

美味しい日本酒 bu Forbul

 日本酒は大きく二段階に分けて作られます。まず原料である米と水、そして麹を混ぜます。麹によりデンプンが分解(糖化)され糖(グルコース)が作られます。次にそこに酵母を加えると、酵母がグルコースを分解(発酵)し、アルコールを作ります。
日本酒の製造は並行複発酵といって麹による糖化と酵母によるアルコール発酵が樽の中で同時に進行します。酵母は日本酒のであるアルコールを生産するために欠かせない存在なのです。

酵母はどんなところにいるのか?

日本酒の醸造に欠かすことの出来ない酵母ですが、日本酒醸造以外にも様々な用途に使われています。ビール作りにはビール酵母が使われ、パン作りにはパン酵母、ワイン作りにはワイン酵母、日本酒造りには清酒酵母が使われます。酵母は1種類だけではなく、何種類も存在していてそれぞれの用途に合った酵母が用いられています。

また、酵母はいたるところに存在しています。酵母は糖を分解してアルコール発酵を行うのですが、それはアルコール発酵をすることで、生きるために必要なエネルギーを得る事が出来るからです。我々、人間がご飯を食べ、エネルギーを得て排泄するのと同じように、酵母も糖を食べ、エネルギーを得て、アルコールを排出するのです。つまり、酵母は糖のある環境を好んで存在しています。自然界で糖分がある環境は、果実や樹液、そして花の蜜などがあります。この花から単離してきた酵母のことを花酵母と呼びます。花酵母の開発に携わった来福酒造の藤村さんは次のように述べています。

糖分のあるところとして、果実、花の蜜、樹液が候補にあがりました。
樹液はあまり聞こえがよくない、果実だとワインのイメージになってしまう。
ということで対象はすんなり花の蜜に落ち着きました。

[引用] 来福酒造の藤村俊文さんに聞く花酵母について

花酵母と言われるとおしゃれな感じがしてつい手を出したくなってしまいますよね…

また、酵母にはいろんな種類が存在していて、人の表皮や腸内、また空気中にも酵母の存在が確認されています。

花酵母をどうやって探し出す?

酵母は何種類もいて、その中で日本酒の製造に適した酵母はごく一部です。一般的に日本酒で使われる酵母は日本酒を絞る前段階のもろみというものから分離してきます。もろみ中には日本酒造りに適した酵母(清酒酵母)が大手を振るっていて、それ以外の酵母は少数派です。そのため、もろみからは容易に清酒酵母を分離する事が出来ます。

清酒酵母の特徴としては、低温化でも活動でき、高濃度のアルコールと優れた香気を生成するという事が挙げられます。また、酵母はアルコール発酵を行うのですが、なんと、自身が生産したアルコールによって生育を妨げられてしまいます。清酒酵母は20度以上の高いアルコール度数でも生育できるような酵母であり、他の酵母に比べアルコールへの耐性が強いです。

清酒酵母が優先的なもろみに比べて、花には雑多な酵母が存在しています。多くの花には醸造に適した酵母がいる可能性はありますが、他の多くの酵母が存在する中でそのような酵母のみを分離(スクリーニング)することは困難です。そこで、東京農業大学の中田久保元教授らは清酒酵母以外の酵母の生育を抑止するイーストサイジンという物質を添加した培地で酵母を育てることで、清酒酵母を単離する事に成功しています。イーストサイジンはもろみ中に存在する麹菌が生産する抗菌物質であり、清酒酵母以外の酵母の生育を抑止する事が分かっています。[2]

このようにして花から単離してきた花酵母を通常の花酵母の代わりに用いて日本酒を醸造します。花酵母を唄っている日本酒はこの酵母が違うだけで他の製造工程は通常の日本酒とは変わらないのです。ちなみに、ワイン用酵母を使った日本酒や、逆に清酒酵母を使ったビールなど、近年本来の用途とは違う目的で酵母を使って醸造を行っている製造者もいます。酵母の可能性が広がっています!!

 

花酵母を使った日本酒はどんなものがある?

花酵母を使った日本酒というのは多くの酒蔵で作られています。中でも花酵母の生みの親である東京農業大学の種類生産科学研究室出身の方が酒造りをしている酒蔵でよく作られています。

その中でも、特に有名な二つの酒蔵を紹介します。

天吹酒造

天吹酒造

 花酵母といったら天吹酒造が挙げられます。花酵母を使っている酒蔵の中でパイオニア的存在と言えるのではないでしょうか。天吹酒造は何といっても花酵母の種類が多いです。バナナ酵母、リンゴ酵母、オシロイバナ酵母、いちご酵母、ひまわり酵母、アベリア酵母、etc。これ以外にもたくさんあり、季節限定酒などもあります。

花酵母は、フルーティでキレのあるアベリアや、上品な香りとしっかりとした味わいでお燗にぴったりのマリーゴールドなどそれぞれ味わいや香りにはっきりとした違いがあり、個性が豊かです。柔らかく華やかな香りのものから力強く味わい深いものまで多種多様な顔を持つ花酵母は、天吹を鮮やかに彩り飲む人の心を和ませてくれます。

天吹酒造

来福酒造

来福酒造

来福酒造は茨城県にある酒蔵でほとんどの仕込みを花酵母を使って行っている、花酵母へのこだわりがとても強い酒蔵です。東京農業大学で単離された花酵母を譲り受けた後、自社でも培養しています。何種類もある花酵母の内、他の原料と相性のいい花酵母を探し出し、多くの花酵母を使った日本酒を醸し出しています。

花の種類によって違いがでるのか?

数多くの花酵母がありますが、それぞれの花酵母毎に味わいや香りが違ってくるのでしょうか?

まず、一種類の花には一種類の酵母だけがいるわけではなく複数の酵母が存在します。そのなかで、日本酒醸造に適さない酵母が大多数ですが、適している酵母も複数います。そのため、一つの花から何種類もの酵母が単離されて醸造に利用されたら、それぞれの酵母で醸し出す味や香りが違ってしまい、消費者に一定した味わいを届ける事が出来ません。そこで、一種類の花から、一番最初に単離された酵母をその花の花酵母と決め、日本酒醸造に使われています。

そして、清酒酵母が存在するもろみとは異なる花由来の酵母は、一般的な清酒酵母にはない特徴的な味や香りを醸し出す個性豊かな酵母も多いです。

ここでは一般的に日本酒の味わいを表現するために使われる成分であるカプロン酸エチル、酢酸イソアミル、リンゴ酸の量に注目した味わいの違いを図にして載せています。

カプロン酸エチル 軽快い吟醸香、りんごや洋梨などの瑞々しい甘みと酸味を持った果実に例えられる
酢酸イソアミル 濃厚な吟醸香、バナナやメロンなどの濃厚な甘みを持った果実に例えられる。
リンゴ酸 爽やかな酸味、香りというよりは味わいに関係する

それぞれの花酵母で違った味や香りが楽しめます。多くの成分が入っているからいいというわけではなく、それぞれの日本酒の個性を味わう事が重要です。

少しでも日本酒選びの参考になったら光栄です。

 

もやしもん

日本酒醸造を始め、微生物を用いた醸造、食品加工についてマンガで楽しく学べます。主人公の沢木惣右衛門直保は菌が見える農業大学に通う大学生。東京農業大学が舞台になっているとかなんとか。主人公が所属する研究室の教授の解説が長すぎて、時々読み飛ばしたくなることがあるほどとても丁寧に説明しています。微生物を扱ったマンガですが、研究室で日本酒を作ったり、フランスにワインを飲みに行ったり、ビール祭りをしたり、サボテンからつくる酒・プルケを作ったりと酒のことばっかり書いています。そして、何より酵母をはじめとした微生物達がかわいいです。食品科学に興味のある人は是非読んでみて下さい。

参考文献

  1. 来福酒造の藤村俊文さんに聞く花酵母について
  2. 清酒醸造用酵母の分離および実用化
  3. 東京農大花酵母研究科
  4. 新訂 日本酒の基

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