「肉を焼くと固くなるのはなぜか…」
料理をしていると、ふと疑問に思う事があるのではないでしょうか。
肉、とりわけ安い肉ほど固くなりやすいでよね。
固くパサパサな肉はテクスチャーが悪く食欲を減退させてしまいます。
そこで、肉を焼くと固くなる科学的な理由とともに柔らかくするための調理法について調べてみました‼
目次
肉を焼くとなぜ固くなる?科学的な理由を解説…
「肉を焼くとなぜ固くなるのか…」を知るためにはまず、肉の構造を知る必要があります。
そして、肉を構成する二つのタンパク質「筋繊維」と「コラーゲン」が加熱される事でどのように変化するかを理解する事で肉が固くなる原因が分かります。
まずは肉の成分から見ていきましょう…
肉の固さに関わる筋繊維とコラーゲン
食品成分データベースという文部科学省が公開しているデータがあります。そこの、牛もも肉の成分構成が次の様になります。
水分 | 74.2 % |
タンパク質 | 21.2 % |
脂質 | 3.9 % |
炭水化物 | 0.4 % |
その他 | 0.5 % |
この成分構成は赤身肉なので、サーロインやリブロースなどもう少し油ののった牛肉だと脂質のパーセントが高くなりますが、一般的に、肉の構成成分として「タンパク質」が大きな割合を占めます。
肉や魚、大豆はタンパク質が豊富というのは聞いたことがあると思います。肉のタンパク質は主に二種類のタンパク質から構成されています。
それは、「筋繊維」と「コラーゲン」です。
筋繊維とコラーゲンはどちらもの繊維状のタンパク質です。
- 筋繊維 : 筋肉の収縮と伸張に関わる
- コラーゲン : 筋繊維の間を埋め、筋繊維と筋繊維を結合させる役割
筋繊維はよく筋肉を使う…つまりよく動く動物ほど発達しています。ジビエのような野生で動き回った動物の肉は固く噛み切りにくいものです。また、年をとるほど筋繊維同士の結合が強くなり、筋繊維を切断する事が難しくなり固さの原因となります。仔牛やラム(子羊)の肉が柔らかく好まれるのは若いうちの繊維はまだ発達が未熟で繊維の結びつきが弱いからです。
コラーゲンはよくお肌のハリとツヤの為に必要…コラーゲンが豊富な食べ物を食べよう…と言われていますが、人間が必要としているのと同様に、動物もコラーゲンを必要としています。動物が持っているタンパク質の1/3はコラーゲンが占めると言われているほどコラーゲンは動物にとって必要不可欠なタンパク質なのです。
肉を焼くことで筋繊維とコラーゲンが変性することで肉の固さが生じるのですが、それについてもう少し詳しく見ていきます。
肉を焼くと繊維が縮む
肉をフライパンで数分焼いた場合を考えてみます。または焼肉の場合を考えてもいいでしょう。
肉を構成する筋繊維とコラーゲンはタンパク質です。そして、タンパク質は熱が加わることで変性といって形が変わったり、本来の機能を失ったりします。
繊維状のタンパク質である筋繊維とコラーゲンは加熱されることで縮んでしまうのです。タンパク質が縮むことで肉の体積が減り繊維が密に詰まった状態になります。そうすることで、美味しさを減衰させる二つの要因に繋がります。
- 繊維が密に詰まることで噛み切ることが難しく固さの原因になる
- 繊維の間の空間が減ることで保持できる水分が減りパサパサする原因になる
これらの要因のため繊維質な肉や焼きすぎてしまった肉は固かったりジューシーさがなかったりして美味しく感じなくなるのです。
しかし、豚の角煮や牛スジ煮込みなどのように加熱時間が非常に長いのに柔らかい肉があるのはなぜでしょうか。
長時間煮込む事でコラーゲンがほぐれる
肉を短時間焼く、という場合には筋繊維とコラーゲンは縮んで固さやパサつきを生じてしまいます。しかし、長時間煮込むことで筋繊維はそのままなのですが、コラーゲンが分解され繊維の詰まりが解消されて肉が柔らかくなるのです。
牛スジは非常に繊維の多い部位なので、焼くだけや短時間煮込むだけでは固くて食べられたものではありません。しかし、長時間煮込むとコラーゲンが分解され、味が染み込んで箸で触るだけでほろほろと崩れていくあの美味な牛スジ煮込みとなるのです。
ここで重要なことは煮込むことでコラーゲンは分解されるのですが、筋繊維は分解されず肉の固さを生み出してしまっているというところです。そこで、コラーゲンは分解するが加熱による筋繊維の縮みを抑える調理法が低温調理という調理法になります。低温調理についてはまた別の記事で詳しくまとめようと思います。
肉を柔らかくするための調理法とは?
ここまでで肉がなぜ固くなるのか…の原理は分かったと思います。それでは実際の調理の中でどうすれば柔らかい肉質に仕上げる事ができるのでしょうか。
ここでは、肉を柔らかくするための方法を大きく3つに分けて紹介していきたいと思います。
- 物理的に繊維を切断する
- 酵素の働きでタンパク質の繊維を分解する
- 繊維の隙間を増やし保水力を高める
それぞれについて詳しく見ていこうと思います。
物理的に繊維を壊す
まず、一つ目の方法は加熱前にハンマーで肉を叩いたり、包丁で繊維を切断したりする方法です。
加熱することで繊維が縮むので、加熱前に繊維を壊しておけば加熱で繊維が縮むことを抑えることができます。この方法は以降の2つの方法に比べ別の材料が必要なくハンマーや包丁さえあればできる点がメリットです。
また、肉の繊維に注目するのも一つの手です。繊維の入り方は肉を見て肉の色の違いや線を見るとすぐに分かると思うので、繊維を断つ方向に切ることで繊維を切断し肉を柔らかくする効果があります。
酵素の力でタンパク質の繊維を分解する
- ヨーグルト
- 麹
- パイナップル
- 玉ねぎ
- ダイコン
これらの食材にはタンパク質を分解するプロテアーゼという酵素が入っています。加熱前にこれらの食材(パイナップル、玉ねぎ、ダイコンはすりおろしたもの)に肉を漬けておくことで筋繊維やコラーゲンが分解されるので、加熱で繊維が縮むことを防止できます。
また、プロテアーゼは調理前だけでなく調理後も意識して使われています。パイナップル入りの酢豚、玉ねぎソースのローストビーフ、大根おろしハンバーグ…これらは味が良いだけでなく、食品に含まれているプロテアーゼの働きで消化・吸収を助けるという目的も果たされています。
ちなみにゼリーを作るときによく使われるゼラチンはコラーゲンが分解して出来たものです。鳥の手羽元や魚を煮込んだ時にスープを冷やすとぷるっぷるに固まると思うのですがそれもコラーゲンが原因です。パイナップルやキウイ、メロンなどを材料にゼリーを作ると固まりにくい事があるのですが、これは果物に含まれたプロテアーゼによってゼラチンが分解されてしまう事が原因です。
ヨーグルトや塩糀に含まれるプロテアーゼは微生物由来のものです。微生物はプロテーゼを始めとした多くの酵素を生産するため、微生物を使った作られたヨーグルトや塩糀などはよく料理に使われます。塩糀の酵素については麹の酵素の働きとは?なぜ肉が柔らかくなる?[図で解説]でも詳しく解説しています。
繊維の隙間を広げて保水性を向上させる
肉を柔らかくする最後の方法は保水性、つまり肉汁をとどめる力を上げる方法です。
- 酢
- ワイン
- 重曹
- 塩
これらの食品は繊維を分解する力はないのですが、繊維同士の反発力を上げることで繊維同士がくっつきにくくします。その結果、繊維と繊維の間に生じた空間に水分を多く含みます。最初に肉の構成成分で示したように、牛もも肉の場合は70%以上が水分になります。加熱し、繊維が密になるとこの水分が抜けていきパサパサする原因になります。
酸、ワインは酸性にする、重曹はアルカリ性にする、塩(しお)は塩(えん)濃度を上げることで保水力を上げることができるのです。
加熱前に肉を30分~1時間漬けておくだけで肉の柔らかさ向上に繋がります。
まとめ
いかがだったでしょうか。肉が加熱で固くなる原理については分かったでしょうか。
原理を知っていれば、ヨーグルトがない…酢がない…となってもいくらでも別の食材で代用して肉の柔らかさを引き出すことが出来ると思います。
肉を調理する際には是非一度肉の繊維に思いを馳せてみてはいかがでしょうか(笑)
肉の小話
本編とはあまり関係内ですが、読者の皆さんはダチョウ肉を食べたことがあるでしょうか。私は一度だけ食べたことがあります。ごま油とニンニクでダチョウの刺身を頂きました。ダチョウは生食が認められていて、また、高たんぱく低カロリーです。ダチョウは鳥ですが赤身の肉で馬肉に近いような味わいで美味しいです。機会があったら是非一度食べてみてください。
コメント
[…] 肉は焼くと固くなる科学的な理由とは?柔らかくするための方法は?の記事でも肉の構造については書いていますがここでも軽く説明します。 […]