「野菜を切ってしばらく放置していたら切断面が茶色くなっていた…」
そんな経験はないでしょうか。
アボカドやごぼうは切ると色が変わるが、キャベツやニンジンはきっても色が変わらない…
野菜や果物によって変色しやすいものと変色しにくいものがあると思うのですが、この違いは何なのでしょうか。
この記事では
- 野菜の色が変わる科学的な理由
- 変色を防止するための方法
を解説していきます。
目次
野菜を切ると変色する原因は?
野菜を切ってしばらく放置すると切断面の色が変わっていく…
この現象は化学的に説明することができます。化学的な理解をしてから変色の防止策を考える事で、料理への理解がより高まります。
別に変色する原因は知らなくていいから、早く防止策を教えてくれ…という場合はここの説明は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
それでは、まず変色の原因となる二つの登場人物について見ていきます。
ポリフェノールと酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)が変色の原因
野菜の切断面が茶色く変色する原因は
- ポリフェノール
- ポリフェノールオキシダーゼ(酵素)
の二つが関わってきます。
まず、第一の登場人物であるポリフェノールについて書きます。
ポリフェノールというとワインに多く入っていて健康に良い…というようなイメージがよくあると思います。
実はポリフェノールというのは一つの成分の名前ではなく、同じ特性を持った何種類もの成分の総称であり、多くの食材にポリフェノールは含まれています。
ポリフェノールは、8000種類以上もあると言われています。植物に広く分布し、子孫を残すための種子や、紫外線による酸化ダメージから守る必要がある葉に、特に多く含まれます。
チョコレートの「エピカテキン」、赤ワインの赤色「アントシアニン」や、緑茶の「カテキン」、カレーのスパイスであるウコンの黄色い色素「クルクミン」、大豆の「イソフラボン」等、すべてがポリフェノールの仲間です。
多くの食材にポリフェノールが多く持っている理由は、紫外線による酸化ダメージから守るためというものです。
この「酸化」は紫外線以外によっても引き起こされるのです。
ここで、第二の登場人物であるポリフェノールオキシダーゼが現れます。ポリフェノールオキシダーゼとは空気中の酸素を使い、食品を酸化させる酵素のことです。
酸素は英語でオキシゲン。ポリフェノールをオキシゲンで酸化する酵素ということでポリフェノールオキシダーゼという名前がついています。
なぜここまでポリフェノールが酸化されることについて書いてきたかというと、ポリフェノールがポリフェノールオキシダーゼによって酸化されることが、野菜の色が変わる主な原因だからです。
植物の細胞内にはポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼのどちらも存在しています。切断前はポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼは細胞内の別々の場所にいるのですが、切断され細胞の中の構造が壊れるとポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼが出合い、反応が引き起こされます。
そのため、野菜や果物をカットするとカットした面でポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼが出合い変色が見られるのです。
ちなみにポリフェノールは植物が紫外線などの酸化ストレスから自身を守るための働きを持っているのですが、ポリフェノールオキシダーゼの生理的な機能というのは現在不明だそうです…
変色しやすい野菜の特徴とは?
出典 : 食品と色
野菜や果物の切断面が茶色く変色する事を「褐変」と呼びます。
褐変が起こりやすい食材にはどのような特徴があるのでしょうか。
ここまでで、野菜や果物が変色する理由はポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼが原因という事を述べてきました。
褐変するのに適したポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼを持つ食材が褐変しやすいのです。この二つの量的な違いや質的な違いが褐変に関わってきます。上の表に褐変しやすい食材と褐変しにくい食材をまとめています。
野菜の変色は好ましくないものして認識されていますが、逆に褐変をうまく利用している食材もあります。それは紅茶です。緑茶と紅茶は実は同じ原料から作られているという事は知っていましたか。
緑茶の原料である茶葉を収穫後、すぐに熱処理してポリフェノールオキシダーゼの機能を阻害することで緑茶は緑のままです。一方、紅茶は茶葉に含まれるカテキンなどのポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼが反応する事で茶葉が茶色く変色してあの紅茶の色になるのです。
このように、褐変もうまく利用すれば食材の色をコントロールできるのですが、野菜や果物の場合褐変は好ましくないです。そこで、ポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼの反応をいかにして阻害するかが褐変を防ぐための手段であり、次の防止策に繋がっていきます。
野菜や果物の変色を防止する方法とは
ここまでで野菜や果物が変色する理由は分かったと思いますが、実際に変色を防止するためにはどうすればいいのでしょうか。
ここでは、変色防止法を4つに分けて紹介していきます。
変色を防止する方法① 加熱する
変色を防止するための一つ目の方法は「加熱する」という方法です。
野菜や果物が褐変する原因はポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼが反応するから、ということでしたが、「加熱する」ことでポリフェノールオキシダーゼが失活するため褐変を防止できるのです。失活とは機能を失う事です。
この方法は野菜や果物を切ってすぐに調理する…と言う場合にはおすすめな方法です。他の3つの方法は調理前に水にや酢水につけることで、栄養素が流れ出たり、酢が食品の味に影響を与えたりするのですが、加熱するだけであればこれらの影響はありません。
しかし、この方法はサラダを作る場合など、食品を生で食したい場合には使えないのがデメリットです。
変色を防止する方法② 水にさらす
2つ目の方法は「水にさらす」という方法です。
この方法は次の食品に有効です。
- じゃがいも
- さつまいも
- なす
- ごぼう
水にさらす事で空気中の酸素と食品を遮断する事が出来ます。ポリフェノールがポリフェノールオキシダーゼの働きで空気中の酸素により酸化されると褐変するので、その酸素を近づけさせないというのが「水にさらす」ことの目的です。
また、水にさらす事で、食品のポリフェノールが水中に溶け出します。そのため食品上でのポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼの反応が起きにくくなるので、褐変を防止できる、という理由もあります。
なすやゴボウを水につけると野菜の色が水に移って水が色づくのを経験したことがあるのではないでしょうか。それは野菜の色素成分であるポリフェノールが水に溶け出している色なのです。ポリフェノールは灰汁の原因物質の一つなので、食品を水にさらす事は灰汁抜きの為にも必要なステップです。
しかし、水にさらすとポリフェノール以外の栄養素も水中に溶け出すので、水につける時間が長くなりすぎないように注意が必要です。
変色を防止する方法③ 酢水・レモン水にさらす
3つ目の方法は「酢水・レモン水にさらす」という方法です。
水にさらすだけでも効果はあるのですが、水に酢やレモン果汁を混ぜる事で褐変防止の効果が高まります。
この方法は次の食品に有効です。
- アボガド
- りんご
- ごぼう
- れんこん
- マッシュルーム
- なす
- ウド
酢やレモンにはpHを下げる働きがあります。酢やレモン以外にも舐めて酸っぱいと感じるものはだいたいpHが低いです。
ポリフェノールオキシダーゼのような酵素はだいたいpH7付近の中性で最もよく働きます。これを最適pHというのですが、逆に最適pHから離れたpH環境を作る事で食品の酵素反応を阻害することができるのです。
酢水やレモン水につけておくことで食品が酸っぱくなることが懸念されるのですが、加熱すればほとんど味は残らないです。
変色を防止する方法④ 塩水にさらす
4つ目の方法として「塩水にさらす」という方法があります。
この方法は主に生で食べたい果物に有効な方法です。
- りんご
- もも
- バナナ
- なし
酢水やレモン水の場合と同様に塩にもポリフェノールオキシダーゼの働きを阻害する効果があるので、塩水にさらす事で褐変が防止できるのです。
塩水は酢水やレモン水に比べ食品の味への影響が少ないので果物へよく使われている印象があります。
野菜や果物が変色していても食べれるの?
「変色の防止を忘れていて、食品が褐変してしまった…」
料理をしていたらこのような場合もあると思います。
それでは変色した野菜や果物は食べる事ができるのでしょうか。
まず、野菜が変色する場合に単純に腐って色が変わる場合もあると思いますが、今回はそのようなケースは含まないです。野菜や果物をカットし、カットした面が数分のうちに変色する場合についてに限定します。
褐変によって食品が腐ったりしているわけではないので、変色してしまった食品も問題なく食べる事ができます。ただ、色が悪くなり食欲が減退する、などの問題があるので褐変をしないように注意して料理をしています。
まとめ
野菜や果物が変色する原因とその防止策について参考になったでしょうか。
原因を知っていることで、酢やレモン水がないから白ワインにつけてみようなどいろんな応用が考えられると思います。
最近、遺伝子組み換え技術を使い、ポリフェノールオキシダーゼの遺伝子を破壊した植物が開発されているそうですう。現在、日本では遺伝子組み換え食品が加工されずに食卓に並ぶことはないのですが、このように新たな褐変防止技術の開発も行われています。法律が改正されたり、育種やゲノム編集などの遺伝子組み換え以外の技術でポリフェノールオキシダーゼの機能を破壊することで、「切っても茶色くならないりんご」のような商品が開発される可能性もあるかもしれません…
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